古文の勉強を始めたばかりの人が、必ずと言っていいほど耳にする呪文のような言葉があります。それが**「あり・おり・はべり・いまそかり」**です。
「単なるラ行変格活用(ラ変)の動詞でしょ?」と軽く考えているなら、それは非常にもったいないことです。実は、この4つの動詞は単なる動詞の枠を超え、「文法」「敬語」「読解」のすべてが凝縮された超重要項目なのです。入試古文では、これらの使い分けや意味の識別が、主語特定や内容一致問題の決定打になることが少なくありません。
この記事では、受験古文を攻略する上で避けては通れない、この「ラ変4兄弟」の正体を、文法的な基礎から実戦的な読解テクニックまで徹底的に解剖します。
1. 文法の基礎:なぜ「ラ変」は特別なのか?
まずは基本中の基本、活用からおさらいしましょう。古文の動詞のほとんどは「四段活用」や「下二段活用」ですが、この4つだけは「ラ行変格活用」という独自のグループを形成しています。
ラ行変格活用の活用表
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あり・おり・はべり・いまそかり
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活用:ら・り・り・る・れ・れ
ここで注目すべきは、終止形が「り」で終わるという点です。 通常の動詞は終止形が「う」の音(書く、落つ、など)で終わりますが、ラ変だけは例外です。これがなぜ重要かというと、**「後に続く助動詞の接続」**に関わるからです。
【試験に出るポイント!】 推量の助動詞「む」や意志の「べし」は、通常は終止形に接続しますが、ラ変型(ラ変およびラ変型活用の助動詞)には**「連用形」**に接続します。
(正)あり・ける(連用形+過去)
(正)あり・なむ(連用形+推量)
この「接続の例外」を狙った文法問題は、入試での正答率が分かれるポイントです。
2. 4つの動詞の「意味」と「使い分け」
すべて「ある・いる」という意味を含みますが、文脈や使われる場面が異なります。
① あり(有る・在る)
最も一般的で、存在や所有を表します。「存在する」「生きている」「時間が経過する」など、幅広い意味を持ちます。
② おり(居り)
「あり」と似ていますが、より**「座っている」「その場に留まっている」**というニュアンスが強くなります。現代語の「居る」のルーツです。
③ はべり(侍り)
ここからが重要です。「はべり」は**「敬語(謙譲語・丁寧語)」**としての性質を持ちます。
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謙譲語: お側にお仕えする(仕ふ、の謙譲語)
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丁寧語: あります、おります、ございます(「あり」の丁寧語)
④ いまそかり(在そかり)
最高レベルの敬語である**「尊敬語」**です。「いらっしゃいます」と訳します。 「いまそがり」「いまそかり」など表記に揺れがありますが、すべて同じ意味です。帝や高貴な人物の存在を表すときに使われます。
3. 入試で差がつく「はべり」の識別術
「あり・おり・はべり・いまそかり」の中で、最も受験生を悩ませるのが「はべり」です。なぜなら、「補助動詞」として使われるケースが多いからです。
本動詞としての「はべり」
「場所」や「人」と一緒に使われ、「お仕えする(謙譲)」または「あります(丁寧)」と訳します。
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例:御前にはべり。(御前にお仕えする。)
補助動詞としての「はべり」
他の動詞の下にくっついて、その動作を丁寧にする役割です。
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例:聞きはべり。(聞きいたします/聞きました。)
【主語特定への応用】 会話文の中で「はべり」が多用されている場合、話し手は聞き手に対して敬意を払っていることがわかります。逆に、地の文で「はべり」が出てきたら、それは作者が読者に対して丁寧に語りかけている(消息文や随筆など)サインです。
4. 「いまそかり」を見つけた瞬間にすべきこと
「いまそかり」は、古文の中で最も「身分」を象徴する単語の一つです。
主語の自動特定
「いまそかり」が出てきたら、その動作の主語は必ず**「帝(天皇)」や「中宮」といった最高位の人物**です。 古文読解では主語が省略されるのが当たり前ですが、「いまそかり」という言葉自体が「主語はあの方ですよ!」と叫んでいるようなものです。これを見逃さないだけで、人物関係の混乱は一気に解消されます。
5. 補助動詞「〜あり」の発展形:形容詞の活用
実は、形容詞(「美し」「高し」など)の活用の中にも「あり」が隠れています。 形容詞の「補助活用(から・かり・かる・かれ)」は、形容詞の語幹に「あり」がくっついて生まれたものです。
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美しかり = 美しく + あり
つまり、形容詞の活用を覚えることは、ラ変動詞のルールを復習することと同じなのです。このように、古文の文法はすべて「あり」を起点に繋がっています。
6. 保護者の方へ:古文は「単語」ではなく「役割」の理解です
お子様が「あり・おり・はべり・いまそかり」を一生懸命暗記しているとき、ぜひ「それは誰が使っている言葉かな?」と問いかけてあげてください。
保護者の方に知っていただきたいのは、古文の単語は「意味」だけでなく、登場人物の「立場」を表す記号であるということです。 「はべり」を使っている人は誰に敬意を払っているのか? 「いまそかり」と言われているのは誰か? この「言葉の裏側にある人間関係」に興味を持つことが、古文を単なる暗記科目から「面白い人間ドラマ」へと変える第一歩になります。
7. まとめ:ラ変4兄弟は「読解のナビゲーター」
「あり・おり・はべり・いまそかり」をマスターすることは、単にラ変の活用を覚えることではありません。
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ラ変特有の「接続(連用形接続)」に注意し、文法問題をクリアする。
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「はべり」の丁寧・謙譲を使い分け、会話の状況を把握する。
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「いまそかり」をヒントに、身分の高い主語を瞬時に特定する。
この4つの動詞を軸にして文章を眺めるだけで、これまで霧がかかっていた古文の世界が驚くほどクリアに見えてくるはずです。
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