クロワッサン、バゲット、そしてコーヒーやカフェオレ、人によっては紅茶やココアなど、日本の朝食と比べるとだいぶシンプルな朝ご飯です。
実は、この朝ごはんには、フランス人の生活習慣だけでなく、世界史にまでつながる背景があるんです。今回は、フランスの朝ご飯についてご紹介したいと思います。
そもそも朝ごはんは、昔からあったわけではない
意外に思われるかもしれませんが、フランス人が今のように「朝ごはん」を食べるようになったのは、せいぜいここ300年ほど前のことです。
中世から近世にかけて、ヨーロッパでは一日二食が基本でした。
最初の食事は昼前後にとられ、これは déjeuner と呼ばれていました。「dé=行為の完遂」、「jeûner=断食する、絶食する」、要するに「déjeuner」 は断食を終えた後の食事、つまりその日に最初に口にする食事を意味します。朝であろうと昼であろうと、「最初」であることが重要だったのです。
二回目の食事は dîner。こちらは一日の中心となる、最も重要な食事でした。そのため結果的に昼頃にとられることが多く、「しっかりした食事」という性格を帯びていました。
また、それに加えてsouperと呼ばれる食事もありましたが、これは上の二食制に加ったオプション的なもので、社交の場や祝宴など、特別な夜に追加されることのある、いわば「余裕のある人のための食事」でした。
ところが18世紀から19世紀にかけて、都市化や労働リズムの変化によって、食事の時間帯が少しずつ後ろへずれていきます。昼の主食だった dîner は夕方から夜へ移動し、夜遅くにとられていた souper は次第に姿を消していきました。
その結果、新たに必要になったのが、起床後にとる軽い食事です。しかしそれは、本来「断食を破る」役割を担っていた déjeuner とは別物でした。そこで生まれた呼び名が petit déjeuner。
文字通り「小さな断食明け」、déjeuner に先立つ補助的な食事という位置づけです。
こうして、 petit déjeuner(朝)/ déjeuner(昼)/ dîner(夜)
という、私たちがよく知るフランス式の三食の構成が形づくられていきました。
フランスの朝食は、じつは「世界の集まり」
一見、パンとコーヒー、紅茶、もしくは子供たちの大好きなホットチョコレート(ココア)という組み合わせは、とてもフランス的に見えますが、特に飲みものをよく見ると、フランス産のものはほとんどありません。
コーヒーはアフリカ、紅茶はアジア、チョコレートは中南米。
これらの飲み物がヨーロッパに広まったのは、大航海時代以降、世界各地との交易が活発になってからです。
18世紀に、これらの「異国の飲み物」が特に朝に飲まれるようになっていきました。
砂糖とサトウキビ農園と奴隷制
また、苦味の強いコーヒーやチョコレートを飲みやすくするためのフランスの朝ご飯には欠かせない砂糖ですが、この砂糖、カリブ海のサトウキビ農園と奴隷制によって支えられていました。18世紀、ヨーロッパで砂糖の消費が爆発的に増えると同時に、この地域を中心とした奴隷貿易が拡大したことも忘れてはいけない歴史だと思います。
フランスの朝の何気ない一杯のコーヒーですが、背景には複雑な歴史をはらんでいるんですね。
中国の磁器
コーヒーや紅茶の普及は、食器や道具のあり方も変えました。
もともと中国からヨーロッパにもたらされた磁器ですが、中国や中東の「器に顔を近づけて飲む」作法に慣れていなかったヨーロッパの人々が、器を口元に運ぶための形を工夫し、取っ手のついたカップと受け皿ができて、18世紀半ば頃に取っ手とソーサーの組み合わせが定着しました。
その後、コーヒーポット、ティーポット、さらには泡立て器を差し込む穴のついたチョコレートポットなど、朝食専用の道具もこうして生まれました。
産業革命とフランスの朝ごはん
19世紀に入ると、産業革命によって人々の生活は大きく変わり、それまでの 「太陽とともに起きる」暮らしから、「決まった時間に起きて働く」生活へ。
コーヒーや紅茶に含まれる覚醒作用が注目されるようになり、朝ごはんは、ゆっくり味わう食事ではなく、頭と体をすばやく目覚めさせるためのものへと役割を変えていきました。
近年では、多様なスタイルが広がってきてはいるものの、それでも平日の朝、多くのフランス人が口するのは、やはりコーヒーとパンです。
シンプルに見えるフランスの朝ごはん、それを紐解くと、世界と深くつながったフランスの歴史が見えてくるように思います。
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