—— 医療DX・AI医療・ロボット手術などの論点をどうまとめるか
大学入試の小論文では、ここ数年「医療 × テクノロジー」をテーマとした出題が増えています。背景には、少子高齢化による医療従事者不足、医療費の増大、AI・ロボティクスの急速な進展といった社会課題があり、大学側が「テクノロジーが社会をどう変えるのか」を考えられる受験生を求めていることが理由として挙げられます。
とはいえ、「医療」と「テクノロジー」という2つの大きな領域が入るため、受験生が文章をまとめづらいテーマでもあります。本記事では、医療系学部志望者はもちろん、文系でも対応できる「医療×テクノロジー」小論文の書き方を、具体例とともに解説します。
1.まずは背景知識をシンプルに整理する
このテーマでは、背景を過剰に専門的に書く必要はありません。受験生レベルで押さえておくべき知識は 「世の中で、医療とテクノロジーの融合が求められている理由」 です。以下の3点を押さえておけば十分です。
① 高齢化による医療需要の増大
日本では65歳以上の人口が増え続け、慢性疾患・生活習慣病の治療が長期化しています。そのため、医療現場の負担が増し、人手不足が深刻化しています。
② 医療費の増大
医療費の増加は国家財政に大きな負担をかけています。効率化・予防医療の推進が急務となっており、テクノロジーの活用が注目されています。
③ AI・ロボットなどの技術革新
画像診断AI、遠隔診療、ロボット手術、ウェアラブル端末、ゲノム解析など、新しい技術が医療の在り方を大きく変えつつあります。
これらを冒頭で簡潔に述べることで、文章全体に説得力が生まれます。
2.大学がこのテーマで見ている能力
医療系の小論文だからといって、医学的な専門知識が求められるわけではありません。大学が評価するのは、次のような思考力です。
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社会に存在する課題を把握できるか
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テクノロジーの利点・問題点を客観的に分析できるか
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医療における倫理観を持っているか
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自分の意見を論理的に組み立てられるか
特に大切なのが 「両面から考える姿勢」 です。
テクノロジー礼賛になってもいけないし、反対意見だけを書いても評価は下がります。冷静にメリット・デメリットを分析したうえで、最終的な立場を明確にする——この流れが小論文に必要です。
3.書き方の基本ステップ
医療×テクノロジーの小論文は、次の4ステップで組み立てると書きやすくなります。
STEP1:背景提示(なぜこの問題が重要なのか)
例:
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高齢化により医療需要が増加し、医療現場の負担は限界に達している。
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この課題に対応するために、AIやロボット技術が注目されている。
問題の「枠」を示すことで読み手に論点を理解してもらえます。
STEP2:テクノロジー活用のメリットを述べる
例:
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画像診断AIにより、医師の見落としを防ぎ、診断の精度向上が期待できる。
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遠隔診療は医師不足地域や自宅療養者に大きなメリットがある。
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ロボット手術は精密で、傷口が小さく、患者の回復も早い。
「具体例 → 効果」という順で書くと説得力が出ます。
STEP3:問題点・課題を示す
例:
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個人情報や医療データの安全性
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自動化による責任の所在
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機械だけに判断を任せる危険性
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テクノロジーへの過信
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導入費用が高く、地域格差が生じる可能性
デメリットを書くことで、バランスの取れた文章になります。
STEP4:自分の結論(あるべき姿)を述べる
例:
「テクノロジーは医療を大きく支えるが、“人間中心”の原則を失ってはならない。医師・患者・技術者が協働し、信頼性の高い制度を整えたうえで導入を進めるべきだ。」
結論は、メリット・デメリットを踏まえた「中庸」な姿勢が最も評価されます。
4.実際に使える「構成例(600〜800字想定)」
大学入試の小論文で非常に使いやすいテンプレートをあえて記しておきます。
① 導入:現状の課題を提示(100〜150字)
日本では高齢化が進み、慢性疾患の長期化によって医療需要が増大している。医師不足や医療費増加が深刻化するなか、医療現場の負担を減らし、患者に質の高い医療を提供するために、AIやロボット技術などのテクノロジーの活用が注目されている。
② メリットの説明(200〜300字)
画像診断AIは膨大なデータを瞬時に解析し、医師の見落としを防ぐ。特にがんの早期発見では有効である。遠隔診療は医師不足地域や高齢者の通院負担を軽減し、地域医療の格差を小さくすることが期待できる。また、ロボット手術は手ぶれのない精密な操作が可能で、傷口が小さく回復が早いなど患者にメリットが大きい。
③ デメリットの提示(200〜300字)
一方で、テクノロジーの導入には課題も多い。医療データの管理や個人情報の漏洩リスク、AIの判断ミスが起こった際の責任の所在など、倫理的な問題が大きい。また、高度なシステムは導入コストが高く、都市部と地方で医療格差が拡大する可能性もある。さらに、医療現場が技術に依存し過ぎれば、医師の経験や人間的判断が軽視される危険性もある。
④ 結論(150〜200字)
医療におけるテクノロジー活用は大きな可能性を持つが、万能ではない。人間の判断力や倫理観を中心に据えながら、データ管理のしくみや法律整備を進め、安全に活用する体制を整えることが必要である。技術と人間が協働し、患者が安心して医療を受けられる社会を実現することが今後の課題である。
5.よくある失敗と改善ポイント
◆ 失敗①:メリットだけ、またはデメリットだけ書く
→ 評価が大幅に下がる
必ず両面を書くことが小論文の鉄則。
◆ 失敗②:AIを「魔法の技術」として扱う
→ 「AIがあれば医療は完璧になる」という書き方は幼稚に見える
AIは人間を補助するものであり、責任の所在や倫理は常に必要。
◆ 失敗③:専門知識を詰め込みすぎる
→ 出典不明の専門用語は逆効果
高校生相応の知識で十分。
◆ 失敗④:患者の視点が抜ける
医療の本質は「人を救うこと」。
患者の安心感・医師との信頼関係を軽視した文章は評価されない。
6.まとめ:医療×テクノロジーは「最も書きやすいテーマ」の一つ
このテーマは一見難しそうに見えますが、
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課題が明確
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メリット・デメリットを書きやすい
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日常生活に近い
という特徴があり、小論文としてはむしろ扱いやすいジャンルです。
重要なのは、専門知識ではなく「論理性・客観性・倫理観」 です。
医療系を志望する生徒はもちろん、文系の受験生でも十分得点できるテーマなので、ぜひ本記事の構成を活かして練習してみてください。
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