古文を読んでいると、「誰がこの動作をしているのか分からない」「急に人が入れ替わったように感じる」という混乱を経験したことがある人は多いはずです。これは、現代語と違って主語がはっきり書かれないことが多い古文特有の性質によるものです。
しかし、古文にも主語の見抜き方には明確なルールと手がかりがあります。特に大学受験においては、「主語が誰か」を正確に把握する力が、読解問題の正誤を大きく左右します。
今回は、「古文の主語を見抜く3つのポイント」として、初学者から受験生まで誰でも実践できる読解のコツを紹介します。難しい解釈に頼らず、構文や語法を手がかりに「論理的に読める力」を育てましょう。
■ なぜ古文では主語が省略されるのか?
現代文と異なり、古文では主語が繰り返されることは少なく、一度登場した人物を省略しながら話が進んでいきます。これは、日本語のもつ「文脈依存型」の性質が強く出ているためです。
たとえば次のような文を見てみましょう。
竹取の翁、かぐや姫を育てけり。美しくなりにければ、求婚者多かりけり。
この文では、「美しくなった」のは誰か、「求婚者が多かった」のは誰か、明示されていません。しかし、前文に出ている「かぐや姫」を主語として読み取ることが求められます。
つまり、古文の読解では、文脈をふまえた主語補完が常に求められるのです。
■ 主語を見抜く3つのポイント
それではここから、古文の主語を論理的に見抜くための3つの基本ポイントを解説します。
【1】敬語から主語を見抜く
主語を見抜く最大のヒントは敬語表現です。古文の敬語には、話し手と登場人物との人間関係が強く反映されています。
古文では主に以下の3種類の敬語があります。
◎ 例文
帝、御覧じて おぼしめす。
→「御覧ず(=ご覧になる)」「おぼしめす(=お思いになる)」は尊敬語。つまり主語は「帝(みかど)」であることが分かります。
◎ ポイント
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尊敬語が使われていれば、その動作をする人=身分の高い人物が主語
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謙譲語が使われていれば、相手=主語より上の人物が文中にいる
敬語と登場人物の関係に注目することで、曖昧な文でも主語が特定できます。
【2】主語の変化は接続語・指示語・助詞に注目
古文は主語が頻繁に変わる文章でも、接続語・指示語・助詞によって変化のサインが示されることがあります。
◎ 接続語に注目
「さて」「しかるに」「ところが」などは場面転換や主語の転換を示すことがあります。
かの人は笑ひ給ふ。しかるに、女は泣きぬ。
→「しかるに」で逆接の展開に入っており、主語が「女」に切り替わっています。
◎ 指示語に注目
「この」「その」「かの」などが出てくると、話題が別の人物に移っている可能性大。
かの男、手紙を読む。この女、涙を流す。
→ 指示語の違いが主語の交代を示している。
◎ 助詞に注目
格助詞「は」「が」「の」は主語の手がかりになります。
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「は」は話題の提示であると同時に主語となることが多い
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「が」は連体修飾的に主語を明示する
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「の」は連体格だけでなく主格として使われることもある(例:翁の住む所)
【3】動詞の意味・性質から主語を逆算する
敬語や助詞がない場合でも、「誰がその動作をしそうか」という動詞の意味から主語を逆算する方法も非常に有効です。
たとえば:
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「おはす」「行く」「出でぬ」…移動動作なので主語は人物
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「咲く」「散る」「照る」…自然現象なので主語は自然物(花・月など)
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「泣く」「怒る」「思ふ」…感情表現なので主語は人物
◎ 例文
月、いと明かければ、入りぬ。
→ 「入る」という動作は人物よりも天体に使われることが多く、ここでは主語は「月」。
◎ 補足:主語の連続性と転換の感覚
文中に主語の変化を示す明確な語がなければ、基本的には前文と同じ主語が継続していると判断します。
逆に、突然別の動作が書かれていたり、動作が矛盾するようであれば、主語が切り替わっている可能性があります。
■ 実践:主語を補って読む練習
以下のような短い古文の例で、主語を補ってみましょう。
問題文
女、手紙を見て涙を流す。父、そばにありて、いと悲しげなり。
→ 1文目の主語は「女」ですが、2文目の主語は「父」であることに注意。文の間に明示はありませんが、主語が交代していることが敬語・文脈・動作内容からわかります。
こうした読み方は、センター(共通テスト)や記述式の入試でも問われるポイントです。
■ 主語を見抜けるようになると何が変わるか?
主語を的確に補えるようになると、次のような効果が得られます。
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現代語訳が正確にできるようになる
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記述問題での人物関係の誤答が激減する
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選択問題で「主語のずれ」を理由に消去できるようになる
つまり、古文全体の読解力と得点力が劇的に向上します。
■ 保護者の方へ:主語補完力=論理力です
古文読解は、ただの暗記科目ではありません。特に主語を補う作業は、「前後の文脈から推論する力」が問われるため、論理的な思考力の育成にもつながります。
日常的にお子様が古文を学ぶ際には、「誰がこの動作をしているのか、何を根拠にそう判断したか」を説明させてみることで、理解が一層深まります。
■ まとめ:主語を見抜けば古文が“読める”になる
古文の主語を正しく把握するための3つのポイントをおさらいします。
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敬語表現から主語を逆算する
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接続語・指示語・助詞の変化を見逃さない
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動詞の性質・意味から主語を予測する
古文が苦手な人の多くは、「なんとなく訳している」状態で、主語がずれていることに気づいていません。主語を見抜く技術は、読解の根幹にかかわるものであり、身につければ古文は格段に読みやすくなります。
ぜひ一度、自分の古文ノートや過去問を使って、主語補完のトレーニングに取り組んでみてください。「誰が何をしているのか」を意識するだけで、文章の世界が生き生きと動き出すはずです。
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